心の友がいてくれる幸せ~エッツの絵本
エッツの絵本『モーモーまきばのおきゃくさま』
子どもの頃、誰かに話しかけることが得意ではありませんでした。
口数の少ない子どもでした。
ご近所に、物心もつかない頃からのお友達が居てくれましたし、
同じクラスで、気の合うお友達が一人は居てくれましたので、
寂しくはありませんでした。
それでも、誰とでも仲良くおしゃべりしたり遊んだりできるタイプの人より、
学校が楽しいとは思っていなかったようです。
家に帰って一人で本を読んでいる時間が好きでした。
そんな幼い頃の気持ちを覚えているのでしょう。
とても心に響く絵本があります。
エッツの『モーモーまきばのおきゃくさま』です。
うららかな春のまきばで、おいしい草をはみ、
きんぽうげを愛で、誰かにごちそうしたいと言う牛に、
おきゃくさまを呼びなさいと、カケスがそそのかします。
たくさんの動物たちが来てくれて、楽しいひと時を過ごしますが、
ごちそうが草しかないと分かると、ほとんどの動物が帰ってしまい、
牛は悲しく、寂しい気持ちになり、カケスは木の上で笑います。
でも、草が大好きな、馬とヤギと羊の子がまきばに残り、
みんなで幸せな時間を過ごしてハッピーエンドというお話です。
絵本の素晴らしさは、
短いストーリーで、たくさんのメッセージを伝えてくれるところです。
この物語は、淡いパステルピンクのページに
エッツ独特の、黒のやわらかな線で、動物たちが描かれ、
ページごとにゆっくりと語られる情景に、
少しずつ感情が入り込んでいきます。
そして、牛の気持ちになり、
悲しみと、喜びを感じることができるのです。
難しい周囲との関係性の中で、
たとえ少数でも、分かり合える友達がいてくれる幸せ。
広い世の中には色々な価値感があり、
共有できる人と、できない人がいて、
それが当たり前で、
それでいいのだ、という事実を、
さりげなく、読み手の子どもたちに伝えてくれるのです。
大人である今、
ページをめくるたびに、
穏やかな気持ちになれる絵本です。
なんと、共感できる喜び。こんな素敵な言葉で綴ってくださって、感動です。