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2019-07-01

太王四神記~過酷な運命を生きる朱雀キハ


火の巫女カジンの転生であるキハは、チュシンの星が輝いた夜、神器を手に入れようと企む火天会によって生家から連れ去られる。妖術を使う火天会の首領によって記憶を消され、火天会の人間として、その野望を達成する手先として教育され育てられる。15歳で見習い神官として国内城の天地神堂に送り込まれたのも、チュシンの星の輝いた日に生まれ、天に遣わされたチュシンの王と目されていたヨン家の息子ホゲの心を掌握させるためだった。

しかしそこで、運命の人、タムドクと出会う。ホゲと同じくチュシンの星のもとに生まれたタムドクは、天地神堂のお告げにより、暗殺の危険から守るために病弱で愚鈍なふりをさせられ、隠すように育てられていた。しかし、王が亡くなり王の弟であるタムドクの父が王位に就いたことで、王位を継ぐ太子の立場となる。亡くなった王の妹でありホゲの母であるヨン夫人は、ホゲこそが真のチュシンの王と信じており、これに納得せず、ホゲを王にするためにタムドクの父の暗殺を企てる。

そんな陰謀の渦巻く国内城の中で、タムドクにとって心の支えとなったのがキハである。偶然の書庫での出会いをきっかけに言葉を交わすようになり、医術の心得のあるキハはタムドクの父を毒から救う。その毒が、火天会の古代呪術師の毒であると気づいたキハは、初めて火天会に抗う。その後、暗殺未遂事件をキハの助言で知恵をもって解決したタムドクは、キハを信頼し心を寄せていく。ドラマではこの後の数年分が端折られ、子役から大人の役者へバトンタッチする。ドラマではよくあることだが、この端折られた日々のみが、タムドクとキハにとって、穏やかで幸せな日々であったに違いない。

その後、王家と対立するヨン家に取り入って高句麗を牛耳ろうと企む火天会の思惑と、タムドクと王を守ろうとするキハとの静かな戦いが始まる。幼少の記憶を消され、使命を刷り込まれた火天会の朱雀としてのキハと、魂の記憶に導かれるようにタムドクを愛し守ろうとするキハ。押された火天会の落胤に自ら刃を向けるも敵わず、苦悶の涙を流すキハ。ドラマを見返すたびに、キハへの感情移入の度合いが増すのは何故だろう。魂の求める愛を貫きたいだけなのに、運命がそれを許さない。次から次へとキハの前に立ち塞がる困難と苦悩に、キハと共に涙を流す。こんなにも苦難に満ちた人生があるだろか。もちろんドラマの、そういう役柄だからなのだが、苦難の中においても強く生きようとするキハの姿に、どうしようもなく心を惹かれる。

その後、様々な陰謀によりタムドクが危機に陥る中、二人は一夜を共にしキハは身籠るのだが、運命はやはり二人を引き裂く。タムドクの愛を失い、絶望したキハはついに崖から身を投げる。しかし、身籠ったのは天孫の子。天により救われてしまう。死ぬことすら許されないのだ。そこからキハは生まれ変わったように、我が子を守り王にする為に生き始める。非情な眼差しで我が子のために世を手に入れようと動く姿は、最終話まで火の巫女カジンそのものである。一度だけタムドクと二人で会い言葉を交わす場面があるのだが、その時だけ、その眼差しが緩むることに気づく。自分を信じきれなかったタムドクを、恨みながらもやはり愛しているのだろう。切ない。

最終話では、息子アジクと、アジクを守り育てた妹スジニに再会し、母と姉の顔になって、天孫の血を狙う火天会の刃から必死で我が子を守る。最後には朱雀の炎に包まれ、あわや黒朱雀に変わるかという姿でドラマは終わるのだが、その表情は穏やかで美しい。来世に託したカジンの想いは、のちに引き裂かれる運命ではあったが、確かに実を結び子を成した。一度も抱くことなく奪われた息子を、最後に抱きしめることができた。そして、タムドクは信じきれなかったことを詫びた。それで十分だったのかもしれない。

火天会にさらわれたのもまた、運命であったのだろう。しかし、それに抗い愛を貫こうとしたキハの姿に胸を打たれ、涙せずにはいられない。


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