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2019-07-14

太王四神記~運命に翻弄される人の定め、ホゲ


高句麗の第一貴族ヨン・ガリョと、王の妹であるヨン夫人との間にホゲは生まれた。それはチュシンの星の輝いた夜。その星が輝く時、チュシンの王が天から遣わされるという預言の星である。王家の血を引くヨン夫人は、我が子こそがチュシンの王と確信する。ホゲはこの母から、王としての教育を受けて育った。チュシン王の再来と目され、母の愛情と期待を一身に受けて育ったホゲは、そうして育てられた者の持つ明るさと寛容さを持ち、武術にも長けた好感の持てる少年だった。タムドクにとってホゲは従兄弟であると同時に、気さくに話しかけてくれる唯一の友人だった。ホゲがタムドクに槍を教える場面は後にたびたび回想されるが、それは次第に残虐な人間に変わっていくホゲの無垢な少年時代の姿を、効果的に思い出させる。

そんなホゲが変わるきっかけとなったのは、ヨン夫人がタムドクの父の毒殺を謀った事件だった。後継ぎのいない王が亡くなった時、次の王はチュシン王の再来ホゲしかいないとヨン夫人は信じていたのだが、後継ぎに指名されたのは、王の弟でありヨン夫人の兄であるタムドクの父だった。この兄妹の母である王妃は捕虜として前燕に囚われていた時期があり、その地から戻った後に生まれたのがタムドクの父だったため、タムドクの父を宿敵前燕の子と噂するものがあった。実際には、囚われた時すでに王妃は身籠っていたので、タムドクの父は正真正銘高句麗王家の血筋なのだが、世間の目は厳しく、タムドクの父は世捨て人のごとくひっそりと暮らしていた。世間と同じくタムドクの父を兄と認めないヨン夫人にとって、そんな人間が王位に就くことも、ホゲに比べていかにもひ弱なタムドクが王位を継ぐ太子になることも、許せるはずがなかった。実はタムドクがホゲと同じくチュシンの星の元に生まれ、『チュシンの王と気づかれぬよう隠し育てよ』との天地神堂のお告げで病弱で愚かなように振舞っていた事を、夫人が知る由もない。王の即位をどうしても認められなかったヨン夫人は、我が子のため、チュシン国のため、王となったタムドクの父の毒殺を計ったのである。

このヨン夫人、美人の女傑でヨン家を牛耳り、兄を兄とも認めず、火天会の人間から毒を仕入れて兄の暗殺を謀るあたり、いかにも悪女のようだが実際は、最愛の息子を王にすることに命を懸ける一人の母だ。結局はタムドクに陰謀の全てを暴かれ自決に追い込まれるのだが、死ぬまでホゲをチュシンの王と信じ、ホチュシンの王になれという言葉を遺す。それが、その後のホゲをチュシンの王に縛りつけることになるのだが、なかなか天晴な女性である。

そんな母の死を目の当たりにしたホゲの悲嘆は、タムドクへの憎悪に変わる。チュシンの王を産んだという誇りを胸に、息子を立派なチュシンの王に育てる使命に燃えていたヨン夫人にとってホゲが人生の全てであったように、ホゲにとっても母は自分を愛し導いてくれる唯一無二の存在だった。陰謀の顛末を聞かされても、最愛の母を死に追いやった者を許すことはできない。それまでは太子タムドクに対して自分の立場をわきまえていたホゲだったが、母の仇を打つために王になることを決意する。

また、火天会の思惑通りキハに心を奪われたホゲにとって、タムドクは恋敵でもある。いくら想いを伝えても、キハはタムドクを慕っていると告げ、つれない。母の命のみならず、愛する人の心も奪っているタムドクだ。憎さも倍増して当たり前だ。

それでもドラマの前半は、ホゲにも人としての正義や優しさが残っていた。ホゲを王にと目論む火天会と父親の陰謀でタムドクを追い詰めた時も、タムドクを守ろうとするキハにほだされてタムドクを見逃してやる。しかしそれが父親の逆鱗にふれ、その一件から、ホゲは一切の情けも正義も捨て、王になるべく邁進していく。ドラマ後半では、血も涙もない残虐な大将軍となって軍を指揮するのだが、同時に、キハの言動にも振り回され続ける。やがてホゲは軍も民衆の支持も失い、最後は「タムドクを殺し天の力を手に入れて欲しい」というキハのために戦い、タムドクに敗れ命を落とす。運命に翻弄された人生だった。

神の子の転生でありチュシンの王として天から遣わされたタムドクは、人として非の打ちどころがない真の王だ。対してホゲは、周りに流され悪い方に変貌を遂げる危うさを持つ人間だ。悩み、苦しみながらもそれに抗えない。「人間は残酷だ。自分を見ればわかる」。ホゲのこのセリフと生き様は、人の持つ危うさをそのまま投影している。だからこそ、ホゲからも目が離せない。

ホゲに惹かれる理由はそれだけではない。ホゲは、敵役ながら愛に生きているからだ。タムドクへの憎悪の根底は母への愛であり、キハへの愛はその生涯において貫かれている。最終話、キハがタムドクとともに死ぬ気であることを悟り、こうつぶやく。「天の力を手に入れたとて、それを誰のために使うのだ」。残虐な役回りでありながら、母のため、愛する人のために戦い続けたホゲ。来世でキハと結ばれますようにと、願わずにいられない。


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