『ありふれた愛じゃない』愛を求めて
素晴らしき心の旅へ~
『ありふれた愛じゃない』村山由佳 著
村山由佳さんの小説が好きです。
若い頃のみずみずしい恋愛小説も好きですが、歳を重ねられて書かれた作品はもっと好きです。中でも一番好きなのがこの小説『ありふれた愛じゃない』。三年前、出版後間もないこの本を図書館で予約して、順番待ちして、ようやく読み、三度くらい読み返して、惜しみながら返却しました。
そしてこの夏、長年の介護生活に一区切りついて迎えたお盆休み。過ごし方に決めたのは、録りためた映画を思うぞんぶん観る事、そしてこの小説を読む事。それは、この本が心をヴァカンスに旅立たせてくれるのを知っているから。
さて、三年ぶりに本を開きました。
第一章。やはりそうです。初めてこの小説を読んだ時、同じ痛みを知る人にしか書けない人物描写だと感じた通り、主人公真奈の言葉一つひとつが腑に落ちる。共感を重ねるごとに気持ちはすっかり主人公。かくして心の旅は始まります。
第二章から第四章はタヒチが舞台。南国の美しい島の風景と雰囲気に満ち満ちて、訪れたことのない南の島に心はすでに飛んでいます。真珠の買い付けという未知の世界、一流リゾートホテルを舞台に繰り広げられる出来事、そして、かつての恋人竜介との再会。場面の一つひとつを愉しみながらその世界に没頭。近ごろ速読なるものがもてはやされていますが、速く読んでしまうなんて勿体ない。一文一文ゆっくりと味わい読み進めるのが私流、読書の醍醐味。
第五章は舞台が日本へ。気分は一気に現実に。不倫の果てに自らの手首を切る上司。真っ直ぐな愛ゆえの激情で真奈の愛を失っていく恋人貴史の哀しさ。傷つき、迷いながらも懸命に自分を保とうとする真奈。すっかり主人公に同化している心の中には、重苦しい感情が渦を巻きます。
第六章。辛い現実感満載の日本から離れ、ほっとしながら舞台は再びタヒチへ。何度も読んでいるので先の展開はもう知っています。知っているだけに、この先のロマンスへの期待についついページを繰る手と心がはやります。まさに潮が満ちるようにひたひたと満ちてゆく二人の愛。その一つ一つの過程が、とうの昔に忘れ去った恋するトキメキで中年(高年?)読者の心をいっぱいに満たしていきます。
第七章は最高のクライマックス。暴漢から真奈を救う竜介は、どんな時も自分を守ってくれる理想の男性そのもの。素敵すぎる。そして、ついに二人が愛を交わすシーンの美しい情景、甘い官能。もはや浮いた話に全く無縁の読者は、その甘美な非現実世界に酔いしれるのです。
そして最終章。村山由佳さんの小説によく登場するキャリアを持つ主人公が、様々な経験を経て、更に自立した女性となって愛する男性と結ばれようとする。その姿が実に理想的で小気味良い。
この小説は私にとって、感情移入しやすく且つほとんど全てが理想的に結ばれる。ゆえに、読後感が半端なく幸せでまた読みたくなる。
パラパラと手軽に楽しむ写真の多い本は購入し、小説は読みたい時に図書館で借りるというのがいつものスタイル。けれどこの本はやはり手元に置くとしよう。そして、いつでもまた、トキメキに満ちた素敵な心の旅に出よう。
この本を書いてくださった村山由佳先生に、心より感謝いたします。
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