『イギリス式 暮らし ガーデン』(井形 慶子 著)
大学で英文学を専攻した。幼い頃から読書が好きで、英語が好きだったからだ。とりわけイギリスに興味があったわけではなかった。英語好きの入り口はスヌーピーやTVの海外ドラマ、そしてハリウッド映画、つまりアメリカの文化だった。
大学三年生の夏、必修と決められていたわけではないが、英文学専攻の学生はみな、アメリカかイギリスへホームステイに出かけた。私は迷わずアメリカへ行き、二か月の夏休み丸ごと、アメリカを満喫してきた。それから30年以上たった今でも、ホストマザーと毎年クリスマスカードを交換している。その二か月の思い出は、これまでの人生で最高に輝いている思い出の一つだ。
そんな私がイギリスの文化や生活に関心を持つようになったのは、主婦歴がかなり長くなってからだ。本屋さんで何となく眺めていた棚で目にして手に取ったのが、この本。著者である井形さんの『古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家』が話題を集めていたのは知っていたが、それまで井形さんの著書を読んだことは無く、自分と同じ長崎県出身の方とも知らなかった。
文庫本サイズでありながら、写真がふんだんに使われていて目にも楽しく、実に多くの事を教えてくれる本だった。そこにある「イギリス式」の暮らしには、お金をかけることよりも手をかけることによって得られる豊かさがあった。小さな庭のもたらす豊かさが綴られていた。
若い頃は、華々しいものへの憧れや物欲に満ちていたので、そんな地味ともいえる豊かさを、豊かさとは思えなかったのだろう。夢に描く幸せな暮らしは、もっとゴージャスなものだった。けれど、一握りの人々のゴージャスな人生ではなく、ごく普通の人生を歩んでいる今は、その暮らしの豊かさを、ちゃんと感じることができる。その本の中にある、古いものを大切にし、草花とともにあるイギリス式の豊かな暮らしをしたいと、心から思う。
この本を読んだ後、鉢植えからハーブを育て始めた。数年たって大きくなったハーブたちが、今、小さな庭で風に揺れている。そしてそれは、間違いなく、私の暮らしを豊かにしてくれている。
コメントを残す